日曜原始人~磨製石器と青年の日曜日~【連載小説01】
大阪府交野市のとある森の中。
サングラスを掛け、軍手をはめた青年がどこか普通の石とは違う少し黒めの石に、トンカチを打ち付けていた。
キィィィン!
鉄の塊がぶつかり合ったような、甲高い澄んだ音と共に石が割れる。
「ふう、上手く割れたな」
木漏れ日を浴び、額の汗を拭いながら青年は呟く。
青年は24才独身、会社員である。
一応定職に就いたものの大してやり甲斐は感じられなかった。
そして、特にこれといって打ち込める趣味もないため、青年は暇をもてあましていた。
そんな時、小学生の頃、原始人の真似事を大人に協力して貰いながらやっていた事を思い出した。
暇だった青年は童心に返るべく石器を作ろうと決心する。
石器は石器でも、磨製石器と打製石器の2種類ある。
今回作るのは磨製石器だ。
本当なら黒曜石で石器を作りたかったが、何処かから採取してくるとなるとかなり遠くになってしまう。
という訳で、青年は黒曜石の代わりに使えるサヌカイトを取りに行く事にした。
サヌカイト、別名、讃岐岩。
黒曜石の手に入りにくい土地で主に代用品として使用されていた。
石を叩いて音を出す石琴の石としても使用されている。
あまり見かけないが、存在する所にはかなりの量が存在している。
ただ、硬い物をぶつけると、キン!、という甲高い音が鳴る。
独特の石の見た目と甲高い音がなるかどうかで判別できる。
磨製石器を作るにはトンカチと、破片が目に入らないようにするためのサングラス、手袋、砥石が必須だ。
それにサヌカイトを割る時に甲高い音が鳴ってしまう。
住宅街でやると近所迷惑だが、交野なら話は別だ。
交野市は約半分を山林が占めているので近場の人通りのほぼ無い森の中で作業をすれば何の問題も無い。
割る事で磨製石器にちょうど良いサイズのサヌカイトが出来たら、後は家での作業だけ。
市内にある100均で購入した砥石で、サヌカイトを磨く。
水がすぐ手に入る所でやると楽だ。
薄く水で濡らした後、刃の部分が鋭くなるように、ひっくり返し、角度を若干変え、研ぎ澄ませていく。
時折、白い泡の様なものを水で流すことを繰り返していると、磨製石器が完成した。
キラリと暮れかかっている夕日に照らされて輝く。
とりあえず完成した磨製石器は机の上に置いておいた。
そして青年の日曜は終わった。
==つづく==